先に逃げていたのは、きっと私だった

カンクン3日目。

チチェン・イッツァに行くツアーバスの中で、私はミジからの返事をまだ待っていた。

自分の心に今何が起きているのか、自分でもよくわからなかった。

ずっと「離れたい」と思っていた人間から連絡が来なくなった、とゆうのは、考え方を変えれば「自分から行動を起こさず済んだ」とゆうスッキリに似た気持ちも多少はあった。

だけど、その気持ちの後にやってくるのは、返してもらえなかったお金の重みからくる怒りと、あいつが今どんな顔と心境で旅をしているのか、とゆう想像から湧き出る憎悪だった。

片っ端から身元を調べ上げて、自分のやったことがどれだけゲスい事なのか、徹底的にわからせてやろうか、とか、やりもしない低レベルな事まで考えた。

今どこで何をしているのかもわからない相手に対しても、私の負の妄想はどんどん膨らみ、醜さの頂点まで登っていき、そして落ちた。

逃げるなんて信じられない。

お前それでも人間か?

どんな根性してんだ?

どうしてそんな事が平気でできるんだ?

どんな心でその行動を決意した?

二人で一緒に過ごした時間、その中で交わした会話。

ミジに出逢ったときは、この旅で一番楽しいと本気で思ったぐらい、バカやって笑いあったあの瞬間を、、、

逃げると決意する前に、一瞬でも思い出すことはなかったのか?


「・・・・・」

金輪際わたしの前に現れないだろう相手への怒りと憎しみへの問い正しを、心の中で悶々と繰り広げる。

すると、それは一周巡って自分自身への問いかけにもなっていた。

その行動を起こす前に、二人で過ごした楽しい時間を一瞬でも思い出すことはなかったのか…?


「・・・・・・・」

きっと、、、ミジの対して先に愛情を無くしたのは、私の方だったんだ。

二人旅への違和感に気付き、先に「一人旅に戻りたい」と思ったのも、きっと私だった。

昨日街で偶然会ったときも、わたしは本当に冷酷な目付きでミジを見た。そこに「情」なんてものは1mmもなかったと言えるほどに。


「あぁ…結局こうなったのは私のせいだ」

未来がこの結末を今に運んでくるまでに、いくらでも回避できる選択はできた。

ミジの自己中心的な性格に違和感を持ったとき、我慢なんてせず、一回一回自分の思いをまっすぐ正直に伝えていれば、こんな結末にはならなかったかもしれない。

お金のことだってそうだ。

例え、カッコ悪くても、面倒くさくても、立て替えなんかせずに、その都度「ちゃんと払って」と催促していれば、こんなことにはならなかった。

慌ただしいスケジュールの中にいたとはいえ、数日間ずっと同じ屋根の下で過ごしていたんだ、話せる時間はいくらでも作れたはずだ。

だけど、二人の間に流れる雰囲気を壊すのが怖くて、私はそれをしなかった。


「・・・・・・・・・」

先に逃げていたのは、ミジではなく私じゃん

この負の思考は、ここからもずっと私の心をグルグル無限ループして止まることはなかった。

止まらない負の妄想から、まわりまわって気付いたのは「自分の非情さと臆病さが原因だった」ということに対する自己嫌悪。

そんなことをすればするほど、自分という人間が醜くなっていくだけだ、ということはわかっているのに。

それでも止められなかった。

しんど、、、もう吐きそうだ。

数時間後、バスがチチェン・イッツァに到着する。


「・・・・・・・・・」

有名な世界遺産のピラミッドを目の前にしても、私の心はもう何にも感じなかった。

人が多い。
楽しくない。
しんどい。
おもんない。
早く帰りたい。

思うのはそんなことばかり。やばいよね、はは(笑)

そんな暗い私のリクエストに答えて、挙げ句の果てに天気さえ曇りはじめる始末。

そんな状態でのバスツアーがようやく終わり、帰りのバスの中で死んだ目をしながら窓の外を見ているときだった。

こんな救いようのないの私の元に、救いの女神はいきなり現れた。

セドナで出逢ったゆかさんから、いきなりメッセージが入ったのだ。

セドナで、NANAさんのツアーに一緒に参加した事から仲良くなった人。

ツアー中は、もちろんNANAさんが場を仕切ってくれていた事もあり、ゆかさんとゆっくり深く話す機会はなく、とりあえずFacebookだけ交換していた状態だった。

アメリカを旅したあとはカナダに行くと言っていたのに、「寒いのが無理すぎた」とゆう理由で、温かいカンクンを選んで飛んで来たとゆう、破天荒なゆかさん!驚笑)

数日前、わたしがカンクンに着いたことをSNSに投稿したのを、たまたま見て連絡をくれたとゆうが、、、

この旅はじまって一番辛かったタイミングに、なんの前触れもなく突如現れたゆかさんが、私にはもう天使にしか見えなかった。

その日の夜、早速ゆかさんと再会することになった。

わたしは反対車線沿いにあるコンビニの前で待つゆかさんの元に信号無視して向かった。

ゆかさんは、約一ヶ月ぶりの再会をとびきりの笑顔で迎えてくれた。

そこから夜のカンクンを軽く歩き、ご飯を食べながらゆっくり話せそうなレストランに入った。

私たちはまず、セドナで別れてからのお互いの旅路をおもしろおかしくシェアしあった。

ゆかさんとの話は、すごく盛り上がった。

精神世界的な深いところまで話しても余裕で理解してくれる人でもあり、ゆかさん自身もそういう類の話を綺麗な言葉で説明できる人でもあった。

占星術やスピリチュアルなこともかなり勉強しているそうで、心のコントロールの仕方や、ライフスタイルのことまで、とにかく色んなマインドが広げる会話ができた。

ゆかさんが、こんなにドープな人だってことをセドナで出逢った時は全然知る術がなかった。

ただのキャピキャピした女の子だと思ってた(すみません)から、意外にも意外すぎて、またこの再会の有り難さに涙しそうになったほどだ。

第一印象だけで人を理解するなんて不可能で、人間ってやっぱりちゃんと腰を据えて話さないと絶対その人のことなんて1mmもわからないもんだと、この時改めて感じた。

旅の話を進めて行く流れに乗っかり、、、

きっとこの醜くて「負」しかないオーラをぶっ放すしてしまうかもしれないけど、、、

どうしても今回あった出来事をゆかさんに聞いてもらいたくなり、、、、

私は、フロリダから始まったミジとの出来事を、ゆかさんにすべて話した。

正直言うと、誰かに聞いてほしくてたまらなかった。

でも今回の事は「誰かに愚痴って終わり」で済むような出来事じゃなかったから、ただの愚痴にはしたくなかった。

愚痴はクセになるだけでなにも解決にならないこと、愚痴を言うことだけが癖になるとただのダサい人間になるだけってことは、結構前に自分なりに悟ったから。

今回の出来事を経験して、、、
自分の心がどうゆう風になって、、、
その後どうすれば元の自分に戻れるのか、、、

それがわからなくて抜け出せない場所に今自分がいるってことを、ゆかさんに聞いてほしかった。

自分だけじゃ、答えがある入り口への方角すら探せなかった。

先述した通り「自分が相手に向き合うことから逃げていた」から、相手もそれに反応して逃げてしまった。

だから、「相手だけが悪くないって」って想えるところまでは、なんとか辿り着けた。

でもそこから這い上がれる方法が、、、
思考よりも、心の傷みの深さと怒りが混じった重たいモノが先にでてきて、見つかる気配がなかったのだ。

そんな今の心の中を、上手に言葉で表現できない部分もあったけど、ゆかさんに全部伝えた。

ゆかさんは、最初から最後までずっと変わらぬ優しい表情をしながら、今回の一部始終を聞いてくれた。

ゆかさん
「愛ちゃんはね、旅の最中、無償で泊めてくれる人のところでお世話になってきたでしょ?今回、彼女に返してもらえなかった9000円分は、もうそこで十分清算されてる」

ゆかさん
「今回のことに腹が立つのは凄くわかる。だけど、マイナスにマイナスにと考えてしまう時間がすっごいもったいない。そのお金は必ずまた違う形で返ってくるし、今までも色んな人に助けてもらったのを聞いててもそう思う」

ゆかさん
「だから、今出てくる怒りを全部認めてあげて。その怒りで醜くなってる自分が好きになれなくて、ありもしないことに妄想を膨らませて悩んでしまってるから、その『怒ってる自分』をまずは受け止めて、愛してあげて」

ゆかさん
「人間だから怒るのは当然。愚痴ってもいい」

ゆかさん
「でもずっと引きずっちゃ駄目。今回のことは、愛ちゃんの心の器を大きくするために起きた出来事だから、相手のソレを受け入れなきゃいけない」

ゆかさん
「自分の器を大きくすれば、相手のしたことをジャッジせずに受け入れられるから。相手の言い分や、相手が愛ちゃんのことをどう思ってるかということは相手の領域であって、愛ちゃんが考えることじゃない」

ゆかさん
「まずは、怒ってる自分を嫌わずに自分の一部だと思って愛してあげて」

ゆかさん
「それと愛ちゃんは、強い意志を持つ星の下に生まれた横で、周りにあわせてしまう傾向があるね。周りに合わせることで我慢や無理がたまったとき、本当の自分の考えや心の中と現実が違ってしんどくなるから、愛ちゃんは思ったことを我慢せずに、素直にまっすぐにちゃんと言った方がいい」

ゆかさん
「時代はこれから特に変わるから——」

ゆかさん
「我慢すること、耐えること、しんどい思いをしてこそ人生、苦労してこそ成功ってゆう日本の古い伝統概念から解放されて、楽しいこと、自分を受け入れてくれる人、居心地の良いもの、好きなものだけを選んで行く人生でいいんだよ。今、時代がそうなってきてるから」

ゆかさん
「だから、あわないと思って切り捨ててきた過去の決断も間違ってない。愛ちゃんらしく、これからも素直で真っ直ぐな旅をつづけて」

別れるとき、ゆかさんはとても大きなハグをしてくれた。

私は、笑顔と今にも泣きそうなのが混ざったよくわからない表情で、ゆかさんとバイバイした。

ミジのトンズラにハッキリ気付いたのは、この翌日だった。

LINEのプロフィール写真が変わっているのに、メッセージが既読にならないことから「まさか…」と思って他のSNSを確認し、自分が完全にブロックされていることにようやく気が付いた。

30年間生きてきて、こんなにも余すことなく綺麗にトンズラされたのは恐らく初めての経験だった。

私は思わずゆかさんにメッセージした。

「正真正銘の音信不通になりました!笑)向こうから去っていってくれてほっとしました」

「怒りの感情もネチネチ考えてしまう心もほぼ消えました!ゆかさんのおかげです」

「このタイミングで、この形でゆかさんに再会できて、めちゃくちゃHappyでした!本当にありがとうございます!」

もちろん、傷みはすぐにはゼロにならなかったけど、その傷みの中でも優しく笑えるようになり、わたしはまた、窓の外の世界に再び美しさを見つけれるようになった。

時が流れ、元の自分に戻り、この出来事を経験できたことに感謝している自分が今ここにいる。

見た目は変わってないけど、私の心の中はきっと大きく強くなったと思う。

難しいことはわからないし、書けない。

脳じゃないし、わたしは心だし。

この記事書くのも、だいぶ時間かかったよ(笑泣)

ただね、いますべてに心から感謝してるよ。

(つづく)