もしも 「YES」 と言っていたら

ラスベガス2日目にして、シルクドゥソレイユから夜のベガスの街までをいっきに堪能してしまった私。

なんだかもう既にラスベガスに思い残すことはないと感じ、翌朝目覚めてからすぐ次の目的地を探し始めた。

明日のりさんとデスバレーに行けば、もうここに長居する理由はなかった。

そんな私が次の目的地に決めた場所はメキシコだった。

とあるTV番組の映像を見てからずっと潜りたいと思っていた海へ向かうことにした。

メキシコには、セドナで仲良くなったアイデが住んでいるので再会も楽しみだ。

大好きなお姉ちゃんにこんなにも早くまた会える!

すんごいわくわくする!うん!良い感じだ。

さて、この日は特に何もすることがなく、近くのアウトレットモールに出掛けて、安いタンクトップを購入した。

昼間に乗ったUberの運転手さんと仲良くなり、その人の仕事が終わってからバーに飲みに連れて行ってもらったりもしたんだけど、お酒が強すぎて「飲めない!あげる!」と突き返したら、その人がけっこう酔っちゃったみたいで早めに解散することになった(笑)

そんな適当な感じで半日を過ごし夕方帰宅すると、金髪マッチョのホストさんとその友人がリビングに座っていた。

友人はアリゾナから車ではるばる来たそうで、割と紳士的な印象に見えた。

お酒のボトルとショットグラスを持ちながらガヤガヤと会話し、家の中は聞いたこともないハード系ラップがガンガン鳴り響いていた。

アルコールを常にたくさん飲んだのか、ホストさんはいつにもなくご機嫌な様子だ。

この二日間、家の中で挨拶しても目すら合わせてくれなかったのに、今日は帰宅した私を見てめずらしく話しかけてきた。


「へーい!どこ行ってたんだ?ベガスはどうだ?」


「買い物!楽しんでるよ」

すると彼は、お酒の酔いがだいぶ効いてるのか、私の鼻を突然引っ張ってきてこう言った。


「アジア人って本当にキュートな顔してるよね(ニヤニヤ)」

褒められてるはずなのに、その変な笑いのせいでなんかカチンともくる。

また、私の話す下手くそな英語が彼にとっては爆笑コメディのように面白いらしく、私が口を開くたびに笑ってバカにされるのでいい気はしない。

それ以外にもこの彼は基本的にいじわるだ。


「日本語で俺に超セクシーでハンサムだねって言ってみて?」


「いいよ!いくらでも言ってあげる!」


アナタッテチョウセクシイダネ!デモナンカワルイヒトダネ!!!!

よし!!!言ってやったぜ!(・∀・)

同じ屋根の下に過ごしていても会話も挨拶もないような冷たい雰囲気よりは全然いいと思えた。

下ネタや汚いスラングワードを使いこなすヤンチャな会話を横で聞き流しながら、私はパソコンで作業しつつ、同じ空間の中にしばらくいた。

すると彼の友達が、ドラッグと拳銃を取り出しテーブルの上に置き始めた。

この人達、、、

想像以上にヤンチャだなぁ、、、

そう思ってはいたが、私は特に反応しないふりを見せた。

アリゾナから来た彼の友達は職業柄それを支給されてるようなことを言ってたから、銃を犯罪的なことに使う空気じゃないことは察知できた。


「これからベガスで一番ホットなクラブに行くけど、お前も行くか?」

そんな悪戯な空気の中で、彼がめずらしく私を外のイベントに誘ってきた。


「わたしドレスとかヒール持ってないから入れないし、いい」

ベガスのクラブは高級ホテルにあるためドレスコードが必須なのだ。

カンヌ映画祭級に派手にキメてくる人が大勢いる。


「その服装でも大丈夫だよ」

光沢感のあるグレーのカッターシャツでバッチリ正装しているくせに、レギンスの上からほつれたデニムのショーパンを履き、今日買ったばかりのタンクトップにアウトドアシューズしか持ってない私によくそんなことを言ったな。

彼の「大丈夫」という言葉の信憑性はなかったが、もうラスベガスという街に来ることはないと思っていたので、彼の誘いを受けるか少しだけ考えてみた。

これも一種の経験かな?こんな格好じゃ絶対入れないだろけど、もし入れたら今一番熱いベガスのクラブがどれだけのものか見てみたい気もする。

もし雰囲気が合わなければ先に帰って来ればいいかと、若干重たい気持ちを抱えつつ、彼らと一緒にクラブに行くことになった。

途中でリカちゃん人形みたいに美人で細くて脚が長くて黄金のブロンドヘアを持つイイ感じに悪女っぽい女の子も合流し、車で高級ホテルへ向かう。

クラブの入り口に行くまでに、数々の一流ブランドショップが軒を連ねる道を抜け、カジノを抜け、バニーガールとすれ違い、レッドカーペットを踏み、ドレスアップした女性達をたくさん鑑賞し、いよいよガンガンと床が振動するクラブの入り口前についた。

この日連れてきてもらったイベントはHAKKASANだった。

ZeddやCalvin HarrisやHardwellまで回しにくるほど有名なクラブだ!彼がベガスで一番ホットと言う意味が理解できる!


だが結局私はクラブに入れなかった。

服装は意外と問題なかったんだけど、年齢を確認するための身分証を持ってこなかったからだ。

ドルと携帯だけポケットに入れて手ぶらで出てきたから、パスポートを家に置いてきちゃった。

だけどね、、、

なぜかわかんないんだけど、、、

これで良かった気がした。


「わたし先帰ってるから!楽しんで!本当に大丈夫だから気にしないで!!!」

私のせいで入り口で警備員さんとやりとりしている彼と友人達にサクッとそう告げてこの場所を離れた。

なぜかわからないが早足で、とにかくこのホテルから出たくて仕方なかった。

歩いてはいるが走っているようなスピードで、とにかく一番最初に外に出れそうなドアに向かった。

外に出て少し冷えた初冬の空気を吸った瞬間、ようやく我に戻った気がした。

昨晩のりさんとあんなに歩いたベガスなのに、今自分がどこにいるのかもわからない。


「お腹空いたなぁ。。。」

そういえば日本の友達に「ラスベガスに行ったらSHAKE SHACK食べてみて!他とは味が違うから!」って言われてたのを思い出しそこに向かうことにした。

店に入ると店内は満員だったので必然的にテイクアウトすることになった。

一番人気のメニューを店員さん任せで注文し、ポケットに入れてきた$30から適当に支払った。

テイクアウトの紙袋をふたつ抱えて店を離れ、座って食べれそうなベンチを探した。

アウターの下はタンクトップ一枚だったからとにかく寒かった。

ハンバーガーもポテトも冷たい風のせいですぐに冷えて固まってしまい全然美味しく感じなかった。

美味しいと感じれないハンバーガーのせいか寒さのせいかわからないまま、何故かちょっとセンチメンタルな気持ちになって一人で家に帰った。

.
.
.
.
.
.

ガチャ。

玄関のドアを開けて私は唖然とした。

ハッカソンで遊んでいるはずのみんながそこにいたからだ。


「やっと帰ってきた!どこに行ってたんだ!携帯見なかったのか!?」

本当だ、、、連絡が何度も来てる。


「ゴメン、ご飯食べてきたの」

ハッカソンで大いに楽しんでいるはずの彼らが、なぜ私より先に家にいるのか全然理解できなかった。


「また行くだろ?」


「・・・・うううん、もういい」

私は決してノリが悪い人間ではないが、この時はもう「YES」と言えなかった。

そんな私の返事を聞いた彼とリカちゃんが目を合わせて深くため息をつき、下を向いた一部始終をちゃんとこの目で追いかけた。

なんともいえない雰囲気に「ごめんなさい」というべきなのかもわからない。

今になっても整理できない複雑な心境。

ただそれは「私のせい」なことだけはわかっている。

でも、私は彼らと仲良しな友達でもない。

数日お世話になっている彼(ホスト)とも、お世辞でもいい関係を保っていたとは言えない。

それなのにわざわざ時間を裂いて帰ってきてくれたことがサプライズすぎて、その優しさの意図が全然わからないのだ。

だけど、わたしがこのときもし「YES」と言っていれば、明日あんな出来事にはならなかったかもしれない。

(つづく)