愛
「ジミー!!!!!!!!!」
ジミー
「ん?」
愛
「フクロウ!!!!!ふくろう!!!!!!」
ジミー
「は?!」
愛
「フクロウだよ!!!!!さっきまでそこに居たんだってば!ジミー!!!って叫んだんだの聞こえなかった?!」
ジミー
「まじで??どこに?!」
愛
「家の前の荷台の脚にずっと停まってた!!!コナーとパコが窓から吠えまくってるのに5分ぐらいずっとここにいたの!!!めっっちゃ小さいフクロウ!あんなの見たことない!ここでは普通なの?!」
ジミー
「家に来たことなんてないし、外にいても簡単に見れるもんじゃないよ。俺だって見たことないさ」
愛
「じゃあ、なんで来たの?! 雪だるまの目にキャラメル埋め込んだからかな?!お菓子置いてたらまた来てくれるかな?!!!」
ジミー
「フクロウはお菓子なんて食べないよ。愛はラッキーなんだ」
愛
「もう感動なんてもんじゃ済まないほど幸せすぎて涙しか出ないよ!あんなにふわふわの可愛い生き物が、すぐそこに、窓の外にって、、、号泣」
愛
「フクロウってなんかすごく幸せな気持ちにしてくれる生き物だね。やばいよ、心が収まらない」
ジミー
「ほらな!やっぱりコーテズに来て良かっただろ?(ニヤニヤ)」
愛
「うん(笑)本当に来て良かったよ!これ以上ないってぐらい心がやばいよ、今。もうフクロウの事しか考えられない!なんの種類のフクロウか調べてみる!!!」
この日を境に、わたしは本当にフクロウのことしか考えられなくなった。
「フクロウを見た!」とSNSに投稿すると、「フクロウは不苦労とも書くから、これからも苦労なく安全な旅ができるってことかな」とフォロワーさんがこれまた幸せなコメントをくれたりして、わたしはすっかり調子に乗ってしまっていた。
フクロウの事を考えていれば味のないご飯だって食べられると思えたぐらい、フクロウとの出逢いを思い返すだけで心が温まり幸せを強く感じた。
目が黄色くて、小さくて、よく見るとお顔はなんだかハートの形をしているこのフクロウは、恐らくアメリカンキンメフクロウという種類で、森林の減少が原因で近年は絶滅種へと向かっているようだ。
「この子、野生のフクロウ見たんだ」
その日以来、街へ行くたびにジミーはわたしのことを会う人たちにそう紹介するようになった。
わたしが撮影したフクロウの写真と動画を雑に見せびらかす紹介の仕方は、時々居心地の良いものではなかった。
ジミー
「写真これだけ?データ全部俺の携帯に送って」っと簡単に言われたのも正直言うとなんだか違う気がした。
でも、お世話になっている手前、断ることもできなかった。
わたしの狭い心が間違ってるのかもしれない。
だけど、大切な幸せの源を雑に扱わないでほしかったんだ。
ジミーがフクロウの写真と動画を他の人に見せると、ほとんどの人達が驚いて、その美しさに賛同してくれたけど、中には「フクロウは(わたしたちの宗教の中では)不吉な生き物だから」と、無表情で言う人もいた。
同じものを見ても、人それぞれ価値観は違うのは理解しているけど、それでもやっぱり大切な宝物をそんな風に扱われることには慣れなかった。
わたしにとって、このフクロウとの出逢いは「奇跡」とも言える出来事だったんだ。
話変わって、フクロウさんが家にやってきた夜、ついにバスルームが完成して熱々のお湯が出るようになりました!
置いてるだけだったトイレも流れるようになったよ!もう我慢しなくていいや(笑)
熱々のシャワーが出た瞬間、超嬉しくなって、ジミーと「いえ〜い!」とハイタッチして一緒に喜んだ。
繊細な話もできない究極に不器用なジミーと、唯一分かち合うことができた、家づくり。
その1つが完成した喜びは、とっても大きかった。
ジミー
「愛が手伝ってくれたからこんなに早く完成したよ!ありがとうな」
愛
「わたしなんにもできてないよ。ジミーが全部一人でやったんだよ」
ジミー
「そんなことないさ。あの時だって、これだって、手伝ってくれただろ?感謝してるよ」
ジミー
「一段落ついたから、明日は行きたがってたモニュメントバレーに連れってってあげるよ!息抜きになるだろ?」
愛
「(驚)え?まじ?!」
ジミー
「その代わりガソリン代は愛が払ってくれよ?ドライバー代も含まれてるんだから悪くないだろ?」
愛
「いや、うん、全然いいんだけどさ…苦笑」
愛
(それは、連れってってあげるって言えないよね・・・苦笑)
そう、家づくり以外のわたしたちって、いつもこんな感じなんだ。
話せば話すほど、ジミーの(男としての)ダサすぎる性格が浮き彫りになっていくのが怖いぐらい嫌だった。
年上の男性からこんなダサい言葉を言われるのって、正直マジで辛い。
他にもっとスマートな言い方もあるはずなのに、この人は本当に不器用なんだ。
お金が心配なら、無理して「連れてってあげる」とか言わなくていいんだよ。
お陰で、コーテズからアリゾナへの往復5時間のドライブは、苦痛な思い出しか残っていない。
ジミーはドライブしながらビールを飲み、マリファナも吸い、ナッツをずっと口の中で「クチャラクチャラ」と食べ、わけのわからぬ下手くそな歌を歌っていて、横に座ってるわたしの気持ちなんてお構いなしの行動をとる。
これがどれだけ苦痛だったかは経験してみなければわからないだろう。
ビールとマリファナを吸いながらの運転は怖かったけど、別に難しい道を運転しているわけじゃないから我慢できた。
最悪、わたしが運転すればいいとも思ってたから。
だが、口元から聞こえてくるクチャラクチャラの音にたまらなく嫌悪感がマックスになり、せっかく窓から見える絶景を台無しにする。
いよいよ全細胞が我慢できなくなったとき、わたしはジミーにはっきりこう言った。
愛
「ねぇ、そのクチャラクチャラしながら食べるのマジでゾッとするから止めてくれない?」
すると、ジミーは何も答えずに音楽のボリュームを最大にして、ジャイアンの5倍ぐらいある声量で突然わけのわからぬ歌を歌い出した
まじでうざい!!!!!!!! キレそう。
これはお前だけのドライブかよ?
わたしは、クソ無理矢理に窓の外にある絶景にだけ気持ちをフォーカスさせて、なんとかジミーのウザさを乗り越えようとした。
そんなことがありながら、ようやくモニュメントバレーに着いた。
前にここに来たときは陽が暮れてしまって写真を撮れなかったけど、今日はちゃんと撮れそうだ!!!
愛
「モニュメントバレーと写真撮って!」
ジミーにそうお願いする。
ジミー
「そこにいる人に撮ってもらえよ」
ジミーは、車から降りてくることさえしない。
こいつ、まじで、どこまでしんどい人間なんだ?
なんでこんなに女心っがわかんないんだ?
わたしは正直な気持ちのままジミーを睨みつけた。
すると何かしら伝わったんだろうか、車に乗りながら窓を全開にして手を出してこう言ってきた。
ジミー
「携帯かせよ、撮ってやるから」
愛
「いらない!!!他に人に頼むから」
ウザすぎる申し出をきっぱり断り、モニュメントバレーと夕陽のコラボを本格的に撮影しにきていたフォトグラファーさんに、申し訳ないけどお願いして写真を撮ってもらうことにした。
フォトグラファーさん
「どうしようかなぁ〜、どうしても俺の影が入っちゃうな〜」
フォトグラファーさんは、ただのスマホで撮る手軽な写真にすら試行錯誤してくれた。
快く引き受けたくれた親切すぎるフォトグラファーさんと、車から降りてくることさえしないジミーを比べて、彼への嫌悪感は一層強くなってしまったことは、もう言うまでもない。
ジミー
「おい!もういいだろ? そろそろ帰るぞ」
愛
(睨)
まだ全っ然撮影に満足できてないのに、車の窓から急かした言葉をかけてくるジミー。
もうこいつの神経がわからない。
息抜きのためにここに連れてきてくれたんじゃないのかよ?
これはおまえだけのドライブかよ?
おまえが息抜きしたかっただけじゃないか?
おまえがガソリン代払えよ、このクソペンデホが(クソ野郎)!
帰り道、わたしはジミーと一切言葉を交わさなかった。
だが、彼はそんなわたしのことを気にもせず、来たときと同様、大声で歌い続ける。
この日の夜、わたしはこのしんどさから逃れるように、次の目的地へのチケットを買った。
(つづく)