セドナの夢見月に何想ふ

セドナを離れる3日前。

今夜は68年ぶりに、月が最も地球に接近するウルトラスーパームーンを迎える特別な日だった。

いつもソファか庭でゆっくりしているマイクとジェフリーが、パトリックと一緒にキャンピングカーの車内を整理して外出する準備を始めていた。


どっか行くの?

パトリック
満月を祝うためにキャセドラルロックに登るんだ。愛も来るかい?


う〜ん、なんか疲れてるから留守番してるよ

わたしは最初、パトリックの好意を簡単に断ってしまった。

だけど、普段は落ち着いてゆっくりしているアイデがめずらしく「行く」と言ったので、わたしも一瞬で気持ちを切り替えた。


パトリック!やっぱり私も行っていい??

パトリック
もちろんさ!絶対来た方がいい

パトリック
でもその服装はダメだ。夜のキャセドラルロックは寒いし、風も強いから危険なんだ

パトリックはそう言って、ぶ厚くて頑丈なジャケットを私に着せてくれた。

そんな特別な行事ならと、はりきって重たいカメラも持って行こうとしたが「カメラは置いていったほうがいい」とすすめられ、夜にキャセドラルロックへ登ることが簡単なことではないことを感じる。

だけど身軽でいい感じだ。

写真のことを考えないでいい旅の時間はとても貴重だ。

未知の経験にドキドキしながら、みんなでキャンピングカーに乗り込んだ。

パトリックのキャンピングカーと、ハリソンおじさんのキャンピングカーの二台で向かう。

パトリック、マイク、ハリソン、ジェフリー、マイルス(オーストラリアからの旅人)、アイデ、狼のジャイ、ハリソンの愛犬ピューイ、そして私。

9人で、月明かりしかないキャセドラルロックのナイトハイクに出掛けた。

ハイクの途中、ハリソンが好意的に写真を撮ってくれるのだが、パトリックはフラッシュをめっちゃ嫌がる(笑)

ピューイは、こんな小さい体なのに険しい岩山の段差をサクサクと飛び越えて登っていく勇敢なハイク犬だった。

昨日昼間登ったばかりなので大体の地形は頭の中にあるとはいえ、月の明かりだけを頼りに登っていく夜のキャセドラルロックは、想像以上に全てが違って見えた。

パトリックがこの神聖な空間で人工的なライトを使うことを嫌がるので、懐中電灯などは一切使わなかった。

何度も言うが本当に月明かりだけなのに、、、

なのに、足元は照らされて、道はハッキリと見えた。

こんなに間近で月光を浴び、こんなに月を間近に感じた日は生まれて今まで一度もなかった。

ハイクの途中に何度か足を止めて、頭上で大きな輝きを放つ月を見上げた。

何かが込み上げてくる。

例えようのない何かとの一体感。

今まで感じたことのない神秘的な何か。

非現実な何か。

それは超静寂な何か。

恐ろしいくらい近くに感じた何か。

英語でも日本語でも何語でもきっと例えられない、名のない大きな「ナニカ」だった。

狼のジャイは体が大きいせいで、足が滑ると体重を支えるのが大変そうだった。

途中「登れない!」と赤ちゃんみたいな声で弱音を吐くこともあったが、それでも一生懸命登って無事全員でボルテックスの谷間まで辿り着いた。

ジャイは明らかに岩山ハイクが苦手な子だったが、私は次に始まる光景を見て、何故パトリックが「お前が必要だ」とジャイをここまで登らせてきたのか、その理由を合点させた。

満月と狼だ。


ジャイはきっと、私達以上に月のことをよく知っている。

ジャイの野性的な遠吠えが落ち着いた後、パトリックが自分で作った笛を吹き始めた。

その美しすぎる音色がこのボルテックスの谷間に咲いた瞬間、私の真横でアイデが声を上げて泣き出した。

・・・もう駄目だ。

わたしは今、地球と宇宙と神秘の交差点にいる。

私はアイデを強く抱きしめ「Open Your Heart」と言いながらずっと寄り添った。

すると、抱き合うわたしとアイデに「May I?」と、エクアドルから来ていたリアーナとゆう旅人がさらに力強いハグとキスを重ねてくれた。

彼女はハイクの途中で出逢った初対面の女性だったが、そこには「愛」だけで繋がった果てのない安堵を感じた。

みんなそれぞれの「ナニカ」を想った、神月夜。

誰を想ったのかな。
何を想ったのかな。
誰を思い出して何を考えたんだろう。
そして何を願ったんだろう。

この夜ここでハッキリ感じたことを当時のメモにこう残した。

月の明かりだけでハイキング。一眼レフを置いてきて少し後悔もしたけど、写真に集中しなくて済んだから満月とこの神秘的な瞬間といっぱい話すことができた。

キャセドラルロック谷間には男性器と女性器の形をしたボルテックスが走っていて「男女のLOVE」を願うには最高の場所だとパトリックが教えてくれた。

パトリックが手作りで作った笛の音色が私達のいる谷間から夜空に向かって奏でられて、みんなそれぞれ想いにふける。

ただ月を見あげる人、目を閉じて感じる人、泣き出す人、どこか一点を見つめる人。

みんなの想いや願いはきっとここなら届く。

Thank YOU so much to all who spent great time here with me…And beautiful moon. Thankful. Never forget.

(つづく)