
4人がまだ寝ているロッジを去り、私は冷静に「ある場所」に向かった。
メキシコシティからわざわざ遠い山奥までやってきて、これを見ずにして帰れるわけがなかった。
忘れてはいませんよ!到着初日に見れなかったあれ!
ヒリトラに来る前、とにかく「ラスポサスに行く」ってことしか聞いてなかったから、この状況だけどやっぱり目的は達成させたい←
総工費6億円かけてつくられた富豪の庭園を見て帰らなきゃ!
早速、ラスポサスの入り口を進んでいくと奇妙な彫刻がお出迎え。
愛
「ヘビだよね?(・∀・)」
ジャングルの中にある庭園ということもあり、色んな行き道があるラスポサス。
若干道に迷いながらも、ラスポサスの象徴とも言える、メインの建物を急ぎ足で探した。
お姉ちゃん達が起きたら真っ先にここに来るだろうから、あまり長居はしたくない。
さくっと見て、さくっとヒリトラを去らなければ。
そんな余裕のない状態でラスポサスを散策していても、何か心揺れ動くものなんて得られるわけもなかった。
せっかくの芸術な建造物を目の前にしても、「ラスポサスにやってきた」という現実から上にも下にも心は動かなかった。
ただ、カメラのシャッターを押すだけの散策になってしまったのは言うまでもない。
ラスポサスさん、エドワードさん、ラスポサスが大好きな方、ごめんなさい。
その後、ラスポサスの入り口にWi-Fiが使えるカフェを見つけたので、朝食も兼ねて、これからのプランをちゃんと考えることにした。
これからこの山をくだって街まで行けるように、オフラインでも地図アプリが見れるように設定しているとき…
「Hey!また逢ったね!」
いきなり聞こえた声の方をハッと見上げると、メガネをかけた長身の白人さんがこっちに向かってくる。
白人さん
「やっぱり!君、この前、売店にいたよね?!」
愛
(´・ω・`)
愛
「あー!!あのときの!?」
そう!一昨日の夜、売店で道を聞いてきた、あの彼だったのだ!
彼は、わたしが広々と使っているテーブル席に躊躇なくドカンっと座り、ドリンクと朝食をオーダーし始めた。
使ってる材料を店員さんに入念に確認していたことで、名前よりも先に彼がヴィーガンだという事を知った。
私がこれまで出逢ってきたヴィーガンのイメージは、超菜食主義という言葉に似合うぐらい物静かで、落ち着いた雰囲気の人しかいなかったけど、彼は全然違っていた。
そんな私たちは、ナチュラルに湧いてきた質問を交わしあい、彼の本名が「ジョシュ」ということをすぐに知った。
愛
「ジョシュは何歳?(・∀・)」
ジョシュ
「俺、何歳に見える?」
愛
「Okay!じ〜(´・ω・`)」
ジョシュ
「待って待って!」
彼は、いったん下を向いて、かけていたメガネを外し、今度は顎を上にあげて私を上から見下ろすような目線になったかと思えば正面に戻ってきて、超キメ顔で私の目を凝視した。
ジョシュ
「ほら、これでどうだい?(キメ顔)」
愛
「あっはははは!!!!何いまの!!!!大爆笑!!!」
愛
「あなたって超っおもしろいね!笑)わかった!36歳だ!」
ジョシュ
「?!!!」
ジョシュ
「なんでなんで!?なんでわかったの?!驚)」
ジョシュ
「もうちょっと若く見てくれるかなと思ったんだけど…」
愛
「わかんないけど、36って数字以外似合わないと思って!合ってたんだ!」
ドンピシャでジョシュの年齢を当てたことで、私たちはより盛り上がった。
ジョシュと再会してまだ数分しか経ってないにも関わらず、彼のユーモア溢れた表情や発言は私を心の底から爆笑させた。
「売店で道を聞いた」という些細な出逢いの私達がこんなにも打ち解けることができたのは、きっとジョシュの並外れたキャラクターのお陰だったと思う。
すごく自信家で、発言に一切物怖じしなくて、物事の判断や他人へのアドバイスにちゃんと強い自分の意志がある。
それでいて、ジョシュはめちゃくちゃ野生的だった。
ジョシュはアメリカ人だった。
サンフランシスコから車で国境を渡り、色んな場所を旅をしながらラスポサスまで辿りついたらしい。
なんでも、この自然豊かなあたりに別荘を建てたくて、土地を探しに来たそうだ。
お金持ちなんだろうか?建築関係の仕事をしてるって言ってたけど、それは自分の別荘なのかクライアントのためなのかよくわからない。
ジョシュ
「愛は一人でここに来たのかい?」
愛
「うううん、友達と…」
ジョシュ
「ほんと? 友達は?」
愛
「ちょっと一緒にいれなくなっちゃって…ちょうど今朝別れてきた」
ジョシュ
「ああ、ケンカ?すぐ仲直りできるでしょ!」
愛
「・・・・」
愛
「ジョシュはマリファナ吸う?」
ジョシュ
「大嫌いだね!吸ったことはあるけど、あれはひどかったよ。効き目が切れたあと、すんごい頭痛がして、それっきりさ。あんなもんはクズだ!吸うもんじゃないよ」
わたしはこの時、今一人でいる経緯を自分から細かく話さなかったが、勘のいいジョシュは何故わたしが一人でいるのか、この質問だけで全てわかったようだった。
ジョシュ
「これからどうするの?友達のとこに戻るの?」
愛
「戻らない!とりあえず、街に行けばメキシコシティに帰れるバスが見つかると思うから、ここまで行こうと思ってる」
私は、さっきダウンロードした地図をジョシュに見せた。
ジョシュ
「それなら、ちょうど俺も隣の村まで滝を見に行くから、ついでだし途中まで乗せてってあげるよ!」
ジョシュ
「とにかく長距離バスを探せばいいんだろ?ここに来るまでに何度かバスをみたから尾行すればいいよ」
愛
「え!マジで?!本当に本当に助かる!今はとにかくこの場所から去りたいし…ねぇ、もう出発しない!?」
こうして、ジョシュの小さくて散らかりまくった車の助手席に乗り込み、2人のロードトリップが始まった。
ジョシュは、本当に本当に本当に野生的な人だった。
女が大好きで、サンフランシスコにいるときは常に彼女は2〜3人いたという(笑)
でもみ〜んな自己中で強気でめんどくさいから「別れよう」と言ってきたらしいが、今でも連絡が来てウザくてたまらないと溜息をついていた(苦笑)
そんな話を遠慮なくしてくるかと思えば、いきなり車を停止させて、森で路上販売している商業者さんの元へ駆けつけ、常に激安破格だと思われるハンモックや、袋にたっぷり入ったオレンジを値下げ交渉して購入し、車の中にほり投げるように突っ込んだり(笑)
愛
「食べれる?(オレンジの)皮、剥いてあげようか?」
運転しながら剥いて食べようとするジョシュを横で見て、思わず声をかけたのだが、その心配はなかった。
ハンドルを握りながら器用に皮を剥き、口にパクリと放り込んだあと、不要な部分は窓から器用に外遠くに飛ばすのだ。
愛
「えっ!外はダメだよ?!ゴミは袋に捨てなよ!」
ジョシュ
「あれは自然に還るから問題ないよ。これがオーガニック肥料だ」
愛
「わかるけど、ここコンクリの道路じゃん!」
ジョシュ
「ちゃんと木のある部分を狙って飛ばしたさ!あ、このオレンジ硬いから剥いて」
愛
「……笑 (`∀´;)」
ジョシュ
「あれ!?前から来るの、愛の友達じゃない?!椅子の下に隠れろ!」
愛
「え!嘘?!どこ?!」
ジョシュ
「嘘だよ!ははははは!真に受けてる!」
ジョシュ
「そんなに会いたくないの?」
愛
「ほんとにやめてよ、そうゆうジョーク(T_T)」
ジョシュ
「おまえは絶対マリファナなんて吸うなよ?おまえは、汚れてないんだから」
愛
「うん。吸わないよ。絶対吸わない」
愛
「でも、マリファナってオーガニックなんでしょ?体にもいいし、医療でも使われるって。ジョシュはなんで前に吸ったの?」
ジョシュ
「バカ!いいか?マリファナはハーブだけどオーガニックじゃない。ほとんどが人工的に栽培されてるんだ。本当のオーガニックはそういう意味じゃない。俺が吸ったのは若いときの好奇心だよ。もう二度とごめんだよ、あんなもん」
ジョシュ
「あと、マリファナを吸う人間を絶対信じるなよ」
愛
「…うん。言ってることわかるよ」
愛
「マリファナを吸った後に、たとえめちゃくちゃ好きな人に『愛してる』って言われても、きっと嬉しくもなんともないもん…」
私たちの会話は、まったく途絶えることがなかった。
ジョシュは色んな話を聞かせてくれて、おもしろい知識を与えてくれる人でもあった。
私を強引にベジタリアンにさせようと説得もしてきたけど、「肉好きだから無理!」とそこは賛同しなかった(笑)
「隣の村に行くついで」と言っていたジョシュだったけど、彼のせいか、私のせいか、2人のドライブが意外にも盛り上がったせいか、隣どころか山から完全に離れ、どう見ても都会と思える場所まで連れてきてくれた。
携帯の電波も、もちろん繋がるようになった。
そして、ついに大きなバスターミナルに辿り着き、メキシコシティへ行く夜行バスのチケットを買うことができた。
今いるこの場所からメキシコシティまでは、11時間ぐらいで行けるとのことだった。
バスが出発する夕方まで時間が空いたので、ジョシュが今晩泊まるという宿探しに一緒について行くことにした。
ジョシュ
「ずっと車で寝てて疲れたから、今日はこの街のホテルで足を広げて寝るよ!」
190cm以上ある身長と体格、そしてこの野生的な性格の彼が、あの小さな車の中で夜を過ごすのは確かにしんどいだろうなっと思って、なんだか無性に笑えた。
宿が見つかったあとは、安いレストランで軽く夜ご飯を食べながら、数時間後のお別れに向けて最後の会話をした。
ジョシュ
「メキシコシティに帰らず、このまま俺と一緒に行こうよ」
ジョシュは、はっきりとこの言葉を私にくれた。
もちろん嬉しかったよ。
何よりも、悲しい思い出で終わるはずだったヒリトラの旅の最後に、彼と出逢えて、こんなにも仲良くなれた事が、今の私にとってどれだけ救いになっていることか、、、
いちいち考えなくても、ジョシュと過ごした今日半日、ずっとその「有り難み」のような想いが心の中にあった。
でも、答えはもちろん「NO」だった。
愛
「ありがとう、ジョシュ。でも行けない」
ジョシュ
「なんで??」
愛
「いや〜、、、わたし2〜3人いる彼女のひとりになりたくないし(笑)」
ジョシュ
「そんなもんはもうキレてるよ!」
ジョシュ
「愛は何がほしいんだい?俺と結婚したい?子供がほしい?何人ほしい?家がほしい?」
愛
「あっはは!あなたほんとにおもしろいね!爆笑)」
愛
「そうじゃなくって、お姉ちゃんとちゃんと仲直りしたいの」
ジョシュ
「マリファナを吸う奴らのことか?なんでなんだ?あんなやつらは…」
愛
「あなたが私のためを想ってそう言ってくれてることはわかってる!」
愛
「ジョシュ、あなたの意見は本当に理解できるし、本当に感謝してる。わたしもマリファナは理解できないよ。でもわたしは、ただお姉ちゃんが大好きなの。だから今でもお姉ちゃんのこと理解したいんだよ。だからもうお姉ちゃんのことをこれ以上悪く言わないでほしい」
ジョシュ
「理解できるよ」
ジョシュ
「今まで、その人と同じ本の同じページを過ごしてきたけど、もうお互い違うページに進むときがきたのかもね」
こうして、レストランを後にした私達二人。
「いい」って言っているのに、ジョシュはバスターミナルまで一緒に来てくれて、バスが搭乗開始になるまで一緒に待合室に座って待ってくれた。

そんなことされても、お別れが辛くなるだけなのに。
だけど、本当に嬉しかった。
愛
「ジョシュは、アメリカではかっこいい方なの?(・∀・)」
ジョシュ
「かっこいいんじゃない?目はブルーだし、背も高いし、お金もあるし、女は常に寄ってくるから困ったことないしね」
愛
「にやにや、マジでおもしろいね」
そして、いよいよバスの搭乗時間になってしまった。
愛
「じゃあ行くね。本当に色々ありがとう!!!また連絡するね!」
私たちはお互いの連絡先を交換して別れた。
ジョシュ
「いつでも俺のいるサンフランシスコに遊びに来いよ」
ジョシュは、そう言ってくれた。
わたしは待合室を出て、外でエンジンを蒸しているバスの列に並んだ。
すると、あと少しでバスに乗り込むタイミングに、ジョシュがまた私の元に戻ってきてこう言った。
ジョシュ
「忘れ物だ」
そう言って彼は、荷物を背負ったままの重たい私を「ヒョイ」っと自分の背の高さまで持ち上げて、おでこにキスをしてくれた。
ジョシュ
「本当に気をつけてな」
最後にそう言ったあと、ジョシュは素の表情に戻り、長い足で歩幅をとりながら颯爽と去って行った。
私は、長身の彼がまたバス乗り場に戻ってこないことを祈りながら、出発するまでずっと窓から出入り口を見続けた。
彼のことをカッコいいと思ったことは一緒にいて一度もなかった。
だけど、彼がモテる理由はめちゃくちゃ理解できる。
ジョシュ?あなたにまたもう一度どこかで逢いたい。
ガサツで、ワイルドで、言いたいことを恐れず口にするあなたに、もう一度心の底から笑わせてもらいたい。
そしてバスは動きはじめた。
メキシコシティまで11時間…
今わたしは、戻ったらどうやってお姉ちゃんと仲直りすればいいか、ひたすら考えている。
(つづく)