愛しているから別れを選ぶ

こんにちは、愛です(・∀・)

フクロウさんと出逢った日から、また来てくれないものかと毎日家の周辺や外を見渡すのですが、それ以来現れることはありませんでした。

鷲はいるんだけど

ジミーに「明後日ここを出発する」と唐突に告げるときの心境に、躊躇いはなかった。

ジミーも特別なリアクションを返してくることなく、次の行き先と交通手段を確認してきただけだった。

ただ、事前に相談することも、前触れもなく急にここを発つと聞いた時の彼が、一瞬無言になった事には確かに気付いた。

だが、わたしはその無言による居心地の悪さを搔き消すように言葉をつないで並べた。


「2日後のチケットが一番安かったから買っちゃった!それに、こんな誰も知らない場所に出逢って、自分たちで家をつくるなんて深い経験をさせてもらって、フクロウにまで出逢って、もう充分すぎる。だから次の場所へ行くよ」

心は次の目的地への準備に一直線で、もう曲がることはなかった。

いつもなら、出逢ってきた人達と別れるのが寂しくてどうしようもなかった経験の方が多かったにも関わらず、ジミーとの別れを惜しんでいるような自分は心の中にはいなかった。

わたしがジミーの元を離れた後、まだ未完成のこの家で彼は少し寂しくなるんじゃないか?と思うことも、なんだかお門違いだとも思う。

 

人生の中には、良い関係のまま離れるタイミングというものがある。

旅人は特に、いつも行き先や滞在期間を自分で決めているということもあり、そのタイミングを直感的に読むことが上手なのかもしれない。

わたしはね、縁があって関わる人とはどんな相手とでもどこまでも深く関わりたいと思うし、それに対して自分なりに常に努力だってする。

心と経験と知識を解放し、相手と過ごすどんな種類の時間だって真面目に向き合いたいって思うし、できればお互いの人生の一部に、クオリティあるものを残していきたいと常に思ってる。

だが、それは自分の何かを我慢して築くものではあってはならない。

どちらか一方が常に相手に寄りかかる(依存する)ものでは、絶対ない。

どちらか一方が常に我慢(妥協)して関係を続けることでも、絶対ない。

こうやって言葉で書くと、「そんなのあたりまえじゃん」と思えるかもしれないが、実際に対相手と24時間を何日も一緒に過ごしていると、それはそんなに簡単に割り切れるものじゃないということがわかる人にはわかってもらえると思う。

一時的な付き合いが大半の世の中で、多くを話さなくても、互いの生き様や潜在的な指針だけで心が通じる相手と運良く出逢うこともあるけど、それは奇跡に近いほど低い確率なことだ。

相手と心から安らげる家をお互いの心の中心に築き続けることは、なかなか難しい。

本当に安らげる家をお互いの中心に作るということは、時に破壊や修理を何度も繰り返さなければいけないと思うのだ。

幾千も経験してきた出逢いの中で、わたしがいつも難しいと思うのは、訳あって長く過ごしているにも関わらず、お互いの心がいつまでも同じサークルに入らず、記憶に残るようなハプニングを生み出せなかった相手と暗黙で過ごし続けることだ。

同じ空間の中にいても、同じサークルで過ごすことができないことは、本当にいつもしんどい。

これ以上一緒にいても、相手にもう何もしてあげられることはないと強く感じ始めたとき、良い意味でも悪い意味でも、もうこの場所から離れるべきだと思う。

これ以上どれだけ一緒にいたとしても、創り上げるものは全てサークルの外にしか置かれないのだから。

わたしは、誰に対しても割とはっきり物を言えるタイプの人間に属していると思うが、それでも相手の心にヒビを入れるかの賭けをするべきか判断しきれないこともある。

特に外国人相手だと言葉を伝えきるという別のエネルギーも必要だから、それに負けて諦めてしまったことも何度もあったが、ジミーと過ごしてきた日々の中では、正直な想いを露わにしてきた。

そんなわたしたちが過ごす最終日、事件は起きた。

それは、テルライドの街を歩いているときに突然起きた。

昨日からまだ持ち越している嫌悪感もあるのに、今日も同じくビールとマリファナを嗜みながら運転してご機嫌になっているジミーに対し、わたしはその全ての悪態をやめてくれとキレながらジミーに告げた。

すると彼は、1秒前まで行なっていた全ての動作を突然ストップしてわたしの顔を強く睨み、凄まじく怖い覇気を出しながらこう言った。

いいか?二度と俺にそんな口を聞くな

その凄みの迫力と突然すぎる状況の変化に、一瞬心臓が止まるほどだった。

怖い。イカツイ。男の本当の怖さ。

だが、心臓がまた動き出すと、その怖さは一瞬にして怒りに変化して湧き出てきた。

本当に強い男は、絶対に女にそんな力で勝ってはいけないのだ。

それは、わたしが幼い頃から見てきた兄の背中から教わってきた「本当の男の強さ」なのだ。

突然のジミーの睨みと暴言に否応ながら泣いてしまったのは、怖かったからじゃない。

怒りが爆発したことが原因だと思う。

この男に腹が立って、もう仕方がなかった。

お前みたいな熊男が、女に向かってそんな睨みと覇気を見せてはいけないだろ。

どれだけ怖いことかわからないのか?考えないのか?

なんでも力で抑え込んで解決しようとするのは人間じゃない。

熊だから、わからないのか?

力で向かって来られたら勝てるわけないだろ。

怒。泣。まじでむかつく。

泣。怖。怒。ぽろぽろ。怖。怒。

明日にはもう別れの日がやってくることも知ってるはずのに、なんで最後の最後にこんなことになるの?

この事件の後、わたしは「買い物したいから一人で行動する」と言って、すぐにジミーから離れた。

怖さを抱えたまま、一緒に行動することに生きた心地がしなかった。

そして2時間程経ってから、ジミーと合流する。

その時にはもう怒りを通り越した心境にいたので、ただ静かにして、ジミーの助手席におとなしく座った。

2時間前に見た別人のようなジミーがちゃんと消えていることにも気付いたけど、もう自分から何も言葉を発しようとは思わなかった。

ジミーも、そんなわたしの心境をようやく見透かすことができていたと思う。

決して良い空気ではない車内の中、唯一救われたのは、窓の外の景色が美しすぎたことだ。

それと、明日にはもう「次の目的地に行く」という未来も、心を下から強く支えてくれていた。

少し車を走らせた頃、最初に小さく口を開いたのはジミーだった。

ジミー
「これ、愛のために探したんだけど、好きかな?」

運転しながら後ろの座席に置いてあるモノに手を伸ばし、横に座っているわたしに差し出したもの。

それは、ツバの広い日除けのダサすぎる花柄の帽子だった(写真なし…)

あまりにもダサすぎて、本当に言葉が見つからなかった。

しかも、テルライドの街にあったフリーボックスから選んだものだという。


「・・・・」

ジミー
「次は夏に来て。その頃には家も完成してると思うから、その帽子をかぶって山にキャンプしに行こう。夏の景色も本当に綺麗だから、愛に見せたい」


「・・・」


「夏には来たいけど、、、これは被らないよ」

ジミー
「なんで?好きじゃない?」


「全然好きじゃない、ダサすぎる」


(ってゆうか、フリーボックスから持ってきた帽子をプレゼントって…)

最後に思った言葉は心の中だけで叫んだ。

ジミー
「愛、ごめんな?俺、気難しくて、嫌な思いをさせて」


「・・・・」

わたしは「ごめんね」も「ありがとう」も言わず、ジミーの横で彼の会話を聞きながら、ただ自然に笑い始めた。

心の中にもうしんどいものは見当たらなかった。

人間という生き物は、すぐには変われない

ましてや、誰かのために変わるというのは不可能に近いことで、本当の意味で変われるとしたら、それは自分の為に変わろうと強く決心したときだけだ。

矛盾したことばっかり書いちゃうけど、自分のために他人の誰かが変わってほしいと思うこともない。

人は、それぞれ自分の好きなように生き、自分のためになる生き方や態度に常々気付きながら、自分のためだけに変化していけばいい。

明日、わたしはジミーと別れを告げる。

これ以上一緒にいて歪みあい、嫌いな部分を曝け出して過ごしていくよりも、

「別れにお互いの未来を託すこと」

それが今一番ベストで、お互いを思いやるための最高の選択なのだ。

ジミーから与えられた傷は今、ちゃんとわたしのサークルの中に入っている。

わたしがジミーに与えた傷も、きっと、未来のどこかで彼のサークルのど真ん中に入る。

たとえ如何なる理由で別れても、わたしたちは時々どこかで、こうしてつながり続けていくんだと思う。

そして、宇宙未来からの采配が下されれば、きっとまたどこかのサークルの中で再会し、あの日の別れを土台にまた新しい2人の家を作るのだろう。

(つづく)