サンタクロースはラスベガスにいた

想像していた以上に美しかったデスバレーにお別れし、ラスベガスに戻る道中にいた。

ラスベガスへの帰り道も絶景は続く。

恐竜の化石がいつ出てきても不思議じゃないくらいの圧巻の景色だったりする。

直前までの美しすぎる景色の余韻を抱えながら、私とのりさんの間には車内でも相変わらずたくさんのトピックスが飛び交う。

これまでどんな人生を歩んできて、どんな経験をして、どんなターニングポイントを乗り越えて、そして今この場所にいる理由。

当たり前だけど、この世界のどこにも同じ人生を歩んでいる人なんていなくて、そして旅の最中だからこそジャンルの違った人と縦ではなく横に関わりあうことができる。

社会の中では社長であろうが偉かろうが有名であろう人とでも、旅の中ではそんな余計な肩書きを一掃して関わりあえるもんだなぁと常に思う。

こんな取り柄のない私でも「マイペースに旅をしてる」とゆうだけで耳を傾けてくれるし、話を惜しみなく聞かせてくれるし、たくさんの助言をくれる懐の広い人がこの地球にはたくさんいる。

今の私から旅で得た人脈をごっそり取られると本当に空っぽになっちゃうくらい、これまでも色んな人に出逢ってきた。

そんなのりさんに私の人生をサクッと話すとのりさんはこう言った。

のりさん
「なんでそんな生き急いでるの?!」

のりさん
「まさか実は大きな病でもうすぐ死ぬなんて言わないでよ?!!」

端から見ると私の人生はそうゆう風にも見えるのか!世論っておもしろいなぁ。

でも余命なんてみんな抱えてるよ!

のりさんが働くセカイの話や、芸能界隈で活躍されている凄いご友人の話や、色んな豆知識を聞かせてもらいながらドライブしてたのですが、一番印象に残っているものがあります。

それはね、、、

実はね、、、

のりさんはね、、、、

丸山ゴンザレスみたいなゴツい体してるくせにね、、、

サンタクロースを純粋に信じているの!


「のりさんごめんなさい」


「私ね、物心ついたときからクリスマスプレゼントをもらったことがないの」

そう、私はサンタクロースなんて意識して生きてきたことがないのだ。

いや、一度子供ながらに靴下をペランと枕元に置いて寝たことはあるが、朝目が覚めても靴下はペランとしたままだったので子供ながらにサンタは不在と察して生きてきた。

世界にはいるかもしれないけど、日本には確実にいない存在だと(笑)

のりさん自身も、サンタクロース存在説への根拠や立証は持ってない感じだったが、信じる人間のセカイには実在するとゆうことを強く語ってくれた。

でもここ最近はわたし自身も考えが色々変わったから、今はその感じすっごいわかる!

宇宙人が当たり前にいると思い切ってる感覚でしょ!?

夢とか空想じゃなく、自分が想像できる生き物や未来は普通にこの世界のどこかで平行して生きてるってこと。

ONE PIECEで描かれていたこの有名な言葉もその通りだなぁって今は普通に思う。


ただ、丸山ゴンザレスみたいなのりさんがサンタクロースのことをいきなり真剣に語り始めるから、私も普通に笑っちゃった!笑)

そんな感じで色んな会話を楽しみながら帰っていたらあっとゆうまにベガスに戻ってきちゃった。

このタイミングで、そういえばずっとチェックしていなかった携帯を確認すると、私がベガスで泊めさせてもらってる金髪マッチョのホストさんから一通のメッセージが来てた。

その内容を読んで、わたしの思考と言葉は止まった。

「今晩は泊められないから出て行ってくれ」

私はのりさんとの会話をストップし、思考を元に戻して彼にこう返信した。

「急になんで?」

するとすぐに返事が帰ってきた。

「は?急ってなにが?俺がメッセージしてから数時間経ってるけど?」

まじでなんやねんこいつ。

「急に」の意味が全然かみ合ってない。

だんだんと腹の奥から嫌な感じの感情がジワジワ上がってきて、それが心臓あたりに到達しそうになったときに、私は横にいるのりさんにようやく携帯の中で起きている現状を告げた。


「すみません、、、なんか、、、ホストさんが、、、、出て行ってくれって言ってて、、、、」

少し言葉をゆらしながら、話すというより「漏らした」に近かった。

のりさん
「え?まじで?」

のりさん
「どうすんの??荷物とか置いてるんでしょ?」

そうだった。荷物、普通に置きっぱなしだ。

ってか、、、それ以前に理由は???

出て行かなきゃいけない理由を教えてくれ。

昨晩のクラブの件か?

わたし、あなたに何かした???

それが知りたい、納得できない。

「理由を教えて、わたしあなたに何かした?」

私は疑問のままにストレートに彼に返信を打った。

するとまたすぐに返事がきた。

「別に?今晩は友達と遊んだあとそのまま家に泊めるから」

はっ、、、、?

思わず失笑した。

私にとって、それは理由にならない理由だった。

でももう納得するでいい。

これ以上このホストさんと話す意味もない。

ただ、もうなんか、、、、

いろんな感情が唐突に押し寄せてはくるけど、なにがなんなのか全然整理できなくって、このあとどうすればいいかとか考える前に思考停止。

とりあえず「荷物どうすればいい?」と返信したあとに彼から返ってきたメッセージがすんごく冷たすぎて、

もう理解できなくて、、

いや理解したくなくって、、、

意味をわかりたくなくって、、、、

でもこの状況だ。

間違いなくちゃんと理解する必要がある。

目の前にいるのりさんにもメッセージの英語の意味を聞いてみた。

彼からの返事はこうだった。

「どこでもいいから次行く場所に持って行ってくれよ」

なんかもう嘘でもなんでもいいからさぁ、、、

ちょっとでも優しい言葉を使ってくれないかな。。。

でも、そのメールを見たのりさんが横でこう言ってくれる。

のりさん
「このあと行く宛てあるの?」

のりさん
「愛ちゃんさえ気にならなかったら俺の部屋ベッドふたつあるから使って!?」

泣いちゃうぐらいありえない申し出をいただいた。

こんな場面でこんな思いがけない優しさに助けられ泣いてしまう私はやっぱり甘ったれだと思った。

本当にどこまでのりさんのお世話になるんだ。

今考えれば明日の朝にはメキシコに行く飛行機の中だ。

荷物だけ彼の家からサッと取って、そのまま空港に直行してベンチかそこかで一夜を過ごしても良かったはずだ。

ここは大都会ラスベガス、朝まで過ごせる場所はいくらだってあるはずだ。

スタバでもカジノのでもどこでも時間をつぶせる。

無駄な出費は避けたいがお金さえ出せばなんとでもなる。

ただ、このときは自分でも自分がこの後どうするのかすぐに考えられなかった。

そうしていると目の前で冷静だったのりさんが一台のタクシーを捕まえて運転手にきっとこんな事を英語で伝えながらお金を渡していた。

のりさん
「この子が行く場所で荷物を拾って、またここまで無事に送り返してくれ」

腑抜け状態ながらも「お金まで出してもらったらアカンやろ!」と気付き、慌ててドライバーの手からのりさんに突き返そうとするが、車のドアは閉まりそのまま荷物が置いてあるホストの家に向かっていった。

ああ、、、なんかもう力が出ないよ。

家に到着すると、ホストの彼も昨晩来ていた彼の友達も、他の旅人の子も、誰もいなかった。

私はとりあえず順番もなにかも無視してバックパックに自分の荷物を詰め込んだ。

そして冷蔵庫に入れてあった自分の食料はぜんぶゴミ箱に強く投げ込んだ。

旅人はあまったものを家に残していく風習があるが、この家に残すものは何もない方がいいと思い、怒りとともに強くゴミ箱に捨ててやった。

今になって思えば、出逢った初日にベッドに押し倒されたときにセックスを拒否してから、彼とは最初から良い関係じゃなかった。

とはいえ、私は泊めてもらってる以上やっぱり「彼とも普通に仲良くなりたかった」とゆう自分なりの思いがあった。

「わたしを家に迎え入れてよかった」と最終的に思ってもらえればとゆう勝手な気持ちがあった。

屋根と風呂だけを借りるためだけに、わざわざあなたにコンタクトをとったわけじゃない。

行く先々でローカルの人と仲良くなり、お互いに良い思い出だと感じて次の場所へ行きたいと思うのは自然なこと。

だからそう思ってもらえるように私なりに努力したけど、彼には全然通用しなかった。

「どう足掻いてもわかりあえない相手だった」とこのときはっきり理解し、怒りと同じくらい悲しく寂しい気持ちも正直あった。

彼はきっと簡単で覚えやすい「AI」とゆう私の名前すら覚えてないだろう。

雑に荷造りを終え、使用させてもらった場所をサッときれいにして家を出るとき、預かっていた鍵のことで少し悩んだ。

アパートの管理室で預かってもらおうと思ったが、こんなときに限ってスタッフが不在だ。

少し待ったが戻ってくる気配もないし、のりさんが手配してくれたタクシーのドライバーもわたしを待っている。

もう仕方ないと思い、彼に最後のメッセージをした。

「ありがとうございました。今荷物運び出しました」

「鍵はオフィスデスクに預かってもらおうと思いましたが、誰もいなかったので開けっ放しでテーブルの上においてます」

するとまたすぐ返事があった。

「Thank you;)」

4日間過ごした中で彼からもらった最初で最後の「Thank you」だ。

はっ。失笑

それだけかい。

あっけなく終わった。

いや、あっけなく終わって良かったんや。

もう何も引きずるものはない。


「・・・・・」

引きずらずにいられるほど大人な私じゃなかった。

この出来事のあとの私は、ずっと心ここに全然あらずだった。

それでも大きいバックパックと普通のバックパックを前後に抱え、のりさんが宿泊している豪華なミラージュホテルに入る。

一緒にいるのりさんに本当に申し訳ないぐらい私のテンションは低く笑えそうにはない。

ホテルの中にはたくさんの人がいるが、私みたいにバックパックを二個も背負った人間はいない。


「のりさん・・・わたし・・・大丈夫ですかね・・・?」

のりさん
「大丈夫でしょ!汚い格好してるわけじゃないんだし!ちょっと荷物多い子ぐらい?笑」

のりさんはなんでもそうやって笑いに変えてくれた。

そんな私のバックパックをクロークで預かってもらった後、私はタクシー代を返そうとした。

のりさん
「いい!いい!いらないって!」


「ダメです!自分のことなので!!!」

私も下がれなかった。

のりさん
「じゃあそのお金でおもしろいショー見に行こうよ!」

多分これも私のテンションを気遣って提案してくれたんだと思う。

またのりさんの優しさに導かれるがまま甘えさせてもらうことにし、そのショーが行われている場所へ向かう。

煌びやかで広いホテルの中を劇場まで歩いていると、のりさんがいきなり何かとんでもないものを見つけたように興奮し始めた。

のりさん
「ちょっ!!!!!!!目つぶって!!!!!!!!!!!」


「なななななんですか?!」

突然の出来事すぎて私はびっくりだ。

のりさん
「いいから!!!絶対に驚くから!!目つぶって!!!」

まさかのハリウッドスターでも見たんだろうか??

そう思いながら言われたまま目を閉じてそのままのりさんに誘導されながら歩く。

のりさん
「いいよ!」

その声を聞いて目を開けた。


「・・・?!」

私は目の前にいる人を数秒見て少し考えたあと、全ての合点がついた。

のりさん
「ねっ!!?本当にいたでしょ!!?」


「のりさん・・・・震」

目をあけた私の前にいたのは、、、

超豪華なソリに乗って赤い服を着た立派な白髭のおっちゃんだった。


「のりさん、、、、、、、、」


「もうこれ以上泣かせないで」


「そして笑わさないで、、、笑涙苦」

この日は11月20日。

クリスマスじゃなくてもサンタクロースは信じている人の前に現れた。

ここで出会ったサンタさんは「チップ」とゆうものを渡さないと写真は撮らせてくれなかったが(爆笑)

それでも私達はラスベガスで確かにサンタクロースを見た。

豪華なディナーをいただきながらショーを見ても、実はまだ心の底から楽しめず笑えない自分がいた。

夜も、新しいシーツの香りがするフカフカのベッドで贅沢に寝転がるけど、今日の出来事をまだ心が消化してくれなくて全く眠れず、ラスベガスで起きたことを最初から悶々と思い返していた。

世の中には色んな人がいて、出逢う人すべてが自分を受け入れてくれるなんて痴がましい考えを持っていた自分に色んな面から反省した。

どんなに相手にそっけない態度をされても、私がめげずに歩み寄れば少しは変わってくれるかもしれないとゆう勝手な期待を彼にしていたこと。

合わない人間をもっと早く見極めて、自分から距離をとる術も知っておいたほうがいいのかなとか、無い地頭で色々考えた。

だけど今思うと、旅が始まって間もないこの時期に今日みたいなトラブルが起きてくれてよかった。

何より、のりさんみたいな優しい人が偶然側にいてくれて本当に救われた。

これでまた旅人として成長できる。

今後の旅路に今日の傷みがきっと役立つ。

経験としてまた力と知恵になる。

あまり眠れなかったけど、翌朝を迎えた。

私が空港に行く前、のりさんは朝ご飯までご馳走してくれた。

本当に最初から最後まで、のりさんに助けられっぱなしの五日間だった。

私はこのとき、セドナでお世話になったパトリックに言われたあの言葉を思い出していた。

「愛はラスベガスとはあわないよ」

パトリックはあのとき私から何を感じていたんだろう。

のりさんのお陰で「悲しみは悲しみのまま終わらない」ってことをラスベガスで教わることができた。

だからラスベガスのことを嫌いにまではならなかったが、また行きたいか?と聞かれれば答えは「NO」だ。

そんなことを考えながらバックパックを背負って空港に向かうとき、本当にお世話になりっぱなしだったのりさんに、最後にもう一度深く感謝を伝えた。

のりさん
「将来ビッグになっても、この出来事は忘れるなよ!」

のりさんは、わたしの将来をなぜかめちゃくちゃ期待してくれている。


「はい!絶対忘れません!!!」


「のりさん本当に本当にありがとう!」

(つづく)