アメリカ人も知らない「コーテズ」という街

昨日はボルダーの街に、念願の雪が降る瞬間に出逢うことができた。

今日は朝一番にレンタカーを借りて、ロッキーマウンテン国立公園に向かった。

アメリカの国立公園の美しさはどこも半端ないので、もし滞在している場所から行ける距離に国立公園があったら、躊躇せずに予定を立てて行ったほうがいいっていうぐらい、ハズレがない。

でも、今日は生憎の天気だった。

雪なのか、雨なのか、とにかくフロントガラスに氷が張って、ワイパーが全然機能しないから運転していて前が見えなくなる。

行き道で何度も車を停車させ、素手で氷を除去してみたり、フロントガラス専用のヒーターがあると聞いてボタンを探してみたんだけど、車のことに無頓着すぎて全然見つけられない。

レンタカー屋さんに電話で相談しても、専門的な英語で何を言ってるのかわからないし;

いよいよコレは危険だなっと怖くなってきたので、半分ぐらい来たところでもったいないけど引き返すことにしました。

歩いたほうが早いぐらい、ゆっくりゆっくりとアイスバーンの中を運転しながらレンタカー屋さんに戻ってきて事情を説明すると、なんと「お金はいらないよ!」って言ってくれた。

だけど、なんだかそれでは申し訳ないので、財布に入ってた1ドル札を全部渡したら「あったかいコーヒーが飲めるよ!」って笑って受け取ってくれた。

.
.
.

夕方、ベンといつものように食卓を共にする。


「ベン、コーテズっていうところ知ってる?」

ベン
「コテーズ??聞いたことないなぁ。どこそれ?」


「同じコロラドにあるんだけど…」

ベン
「全然知らないなぁ。そんなに有名じゃないんじゃない?」


「うん、そうだと思う」


「なんかね、私がアメリカ横断を始めたときからずっと、ここに住んでる人からホストオファーをもらってて、ちょっと気になってるんだ」

ベン
「ほぼアリゾナ側じゃん。多分超田舎だね。そこになにかあるの?」


「わかんない(笑)」


でも『コーテズは絶対来るべき!絶対来てよかったって思うよ!』って、めちゃくちゃ勧めてくれてるの。ずっと連絡とりあってる感じから良い人っぽいし行ってみようと思ってるんだけど、ボルダーからどうやって行けば効率いいかなぁ?」

ベン
「バスは?グレイハウンドなら近くまで出てると思うよ」


「それがね、同じコロラド州の移動なのに結構高くって…!」

(…パチパチパチ)


「お!デンバーから飛行機もあるっぽい!でも一番早くて明後日の便だ(涙)」


「ベン、もう一泊ここに泊まってもいい…?」

ベン
「いいよ♪」

こうして私は、ベンの前で次の行き先を決めた。

この儀式とも言える別れの瞬間は、旅人にとっていつも当たり前のようにやってくる。

どれだけ今一緒に過ごしている人と親しくなって幸せな毎日を過ごさせてもらっていても、その全てに潔くお別れをしなければいけないのが「旅人の常」なのだ。

だけど、ベンには絶対にまた逢える気がした。

ベン
「今まで受け入れてきた旅人の中で、愛と過ごした時間が一番楽しかった」

ベン
「言葉の壁なんてすっかり忘れていたよ。次は日本で逢おうね!」

ベンが最後にわたしにくれたメッセージは、本当に綺麗な英語で書かれていて、また涙で心をホロホロさせてしまった。

ベンと過ごした時間の中で得ることができた本物の温かさは、今も私の心を温め続けてくれている。

お別れの辛さ以上のものが心の中にある。

ベンは、女の私に対して「男」を出さず、常に「友達」として接してくれた。

女一人で旅していると、男友達との関係を作り上げるのがしんどいことのほうが正直多い。

この人は、わたしを「人間」としてみてくれてるのかな?

それとも、「メス」として最終的には見るのかなって。。。

相手の些細な行動や空気から常にジャッジしながら、上手に旅を進めて行かなきゃいけない。

それって結構しんどいし、疲れるし、時々裏切られて悲しくなるし、気持ち悪くなるときもある。

でも、ベンとの温かい出逢いでそんな疲れた心をまた真っ新にしてもらい、またこうやって前を向いて心を閉ざさずに旅を続けることができる。

ボルダー滞在最終日の夜は、珍しくベンと外食した。

家の近くにある美味しいと評判のベトナム料理屋さんで、いつも通り二人でまったり過ごす。

滞在中ベンにお世話になりっぱなしだったので「ここは私に支払わせて」とご馳走させてもらった。

フォーチュンクッキー

そして別れの日の朝。

わたしは早朝のヨガクラスに参加してから空港に向かうことにしたので、少し急ぎ足での挨拶になってしまった。


「わたしたちもうずっと友達だから!今度はベンが彼女を連れて日本に遊びにきて!」

そういってソファで朝食をとっているベンに、ハグをして先に家を出た。

ベンは、いつもより少しだけ無口だと感じた。

ヨガから帰ってきたらもうベンは仕事に出掛けていたので、キャスパーと2人で最後の散歩にでかけた。


キャスパー?あなたはきっとベンの温かさを誰よりも強く感じてるんだよね?


だからそんなにも純粋に人間が好きなんでしょう?

ああ、、、本当にボルダーに来て良かった。

ベンという優しい人が私のホストさんになってくれて、そして友達になれて、本当に幸運だ。

追伸:わたしは、この二年後にもベンに逢いに行った。

(つづく)