ばいばい、大好きなお姉ちゃん

今回の旅で起きたお姉ちゃんとのすれ違いで、私はかなり深いところまで降りれた気がした。

人間は寂しさから怒りを生み、怒りから寂しさを生む生き物だ。

メキシコでの滞在すべてを通して、そう気付かされた。

人間関係というものは繊細なアートと似ていて、力まかせに創ろうとしても何も生まれないし、浅い部分の気持ちだけでは良いものは決してできない。

ひたすら時間をかけて向き合い、途中でもし行き詰まったなら休憩をとりながら、心の深い部分を丁寧に下がっていく。

そして優しく、ただ優しく創り上げていく、そんな気がした。

 

11時間の夜行バスに中、お姉ちゃんとどうやって仲直りしようかひたすら考えた。

ヒリトラでの旅を通して、自分の心に自然と生まれてしまった想いを正直に伝える事が大切だと思ったから、心の中にあるものをできる限り文字にした。

心にあるものを言葉にして脳へ送る作業は果てしなく、バスの中ではあまり寝れなかった。

だけど、イヤホンで音楽を聴きながら窓越しに流れていく景色を見つめる移動時間は、心と頭を整理するには一番集中できる最高の環境だということにも気がついた。

 

早朝、お姉ちゃんの家に帰ってきた。

鍵は預かっているので、締め出しになることもなかった。

メキシコにいる間、お姉ちゃんが屋上に借りている倉庫部屋を自由に使わせてもらってたので、わたしはいつも通り、そこで仮眠をとった。

お姉ちゃん達が帰ってくるのは夜遅くになるだろうからと、ウトウトしながらベッドに横になるとすぐに寝てしまった。

体は正直だ、やっぱり結構疲れてたんだと思う。

 

夜になり、ガチャガチャと鍵が開く音が聞こえて、すぐにベッドから体を起こした。

わたしが起き上がると同時にドアは開き、お姉ちゃんはすごい勢いでわたしに向かってこう怒鳴った。

お姉ちゃん
出て行って!ここはホテルじゃない!明日の朝までに荷物まとめて出て行って!

ガチャン(!!!)

ベッドに座った状態のまま体が動かなくて、何も考えられなかった。

こんなつもりじゃなかった。

バスの中で考えたお姉ちゃんとの仲直りのイメージは、こんなんじゃなかった。

お姉ちゃんが帰ってくるタイミングにちゃんと待ち伏せをして、、、

あれで、これで、、、

こうして、、、、、

涙。。。

泣。。。。。。。。。

号泣。。。。。。。。。。

わたしは本当に泣き虫だ。

泣きたくないけど、いっぱい目から出てくる。

ボトボトボトボト目から海水のような水が出てきて、胸のあたりがぎゅっと痛いのをこらえながら荷造りと部屋の掃除をはじめた。

お姉ちゃんに怒鳴られた言葉が心と脳をずっと行き来した。

「今すぐ出て行け」とは言わず、「明日の朝まで」と言った。

こんな状況でも、まだお姉ちゃんの優しさがあることに気付く。

決して治安が良い場所ではないメキシコシティだから最低限気を使ってくれたのだろうか。

でも、もう今だ。

ここに一秒でも長くいれば、余計に涙が出てきてしんどくなる気がしたわたしは、今すぐに出て行こうと思った。

それが正しいのかは全然わからないけど、体はただそっちの方に重く動いた。

恐れながらトントンとノックをしたあと、お姉ちゃんのいる主屋に入らせてもらい、ソファでテレビを見ているお姉ちゃんを横に、お風呂場に置かせてもらってたものを取りに行った。

容量が悪く、何度か行き来する私の横で、お姉ちゃんがテレビの電源を消したことで空気が変わった。

それは、二人の間に今から新しいナニカを創り出せるような「余白」をくれたことを、わたしなりに感じた。


「ヒリトラ旅行のお金はいくらですか…」

お姉ちゃん
「そんなのいらないわ」

わたしは今持ってるだけのメキシコペソを全部テーブルの上に置いて、そのまま崩れるように床に座り込んだ。

お姉ちゃんは、わたしがテーブルに置いたものに見向きもしなかった。

わたしの涙は止まるどころか、余計にブワブワと溢れてきてもう止めようがなかった。

こんな形でお別れしなきゃいけないの?

ただそれだけが悲しくて何も言えず、泣いているだけの私に先に言葉をくれたのはお姉ちゃんだった。

お姉ちゃん
「なんで泣くの?」

お姉ちゃん
「わたし、あなたに出逢えたこと、すごく感謝してる」

お姉ちゃん
「すごく楽しくって、色んなことを学んだわ」

お姉ちゃんは、そのままマリファナのことも語り始めた。

わたしは下を向きながらそれを全部聞いたあと、自分の今の気持ちを精一杯で伝えた。

英語が足りないかもしれないところは伝わってるか、いちいち確認しながら。
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なぜヒリトラから一人で帰って来たのか。

あのときどんな気持ちだったのか。

そして今どう想ってるいるのか。

なんで今こんなに泣いてるのか。

そして最後に、ただただ溢れるお姉ちゃんへの感謝と、お姉ちゃんが大好きだから嫌われたくないとゆうことをハッキリと伝えた。

お姉ちゃん
「何故あなたのことを嫌いにならなきゃいけないの?」

お姉ちゃん
「私たちは、言葉の限界がある中でずっとコミュニケーションしながら過ごしてきたのよ。きっとお互いの繊細な想いや、気付かぬうちに溜まったフラストレーションをぶつける術がわからなかったんだと思う」

お姉ちゃんは優しくそう言った。

今回のヒリトラ旅行以外で、お姉ちゃんに対してそんな気持ちを感じたことは一度もなかった。

でも、優しすぎるお姉ちゃんは、もしかしたらどこかで感じていたのかもしれない。

今まで同じ本の同じページを過ごしてきたけど、もうお互い違うページに進むときがきた

ジョシュが言っていた言葉を思い出す。

本当にその通りだ。強くそう感じるよ。

お姉ちゃんとは、なんだかんだもう1ヶ月以上ほぼ毎日一緒にいる。

お姉ちゃんがどんなに心の広い人間だとしても、こんな私といるのはそろそろ限界だと思う。

お姉ちゃんの優しさに甘えるだけで何もかも順調だと思い込み、行きたい時に次の場所へ行けると思っていた傲慢なわたし。

マリファナを知らない無知なわたし。

そして、孤独を感じやすい未熟なわたし。

もうなにがなんだかよくわからないけど、時が来たのは確かだ。

この大好きになった「メキシコの全部」に、さよならしなきゃ。

大好きな、大好きな、、、

こんなにもメキシコを大好きにしてくれた、、、

大好きな、大好きな人。

お姉ちゃん
「これからどうするの?」


「なにも決まってないから、とりあえずどこか泊まれるところ探す」

お姉ちゃん
「ここにいていいよ」


「うううん、行かなきゃ」


「もう、行かなきゃいけないって気付いたの」

お姉ちゃん
「居心地が悪いのはわかるけど、本当にいていいから…」


(笑顔…グシャグシャ…ポロ…涙)


「…ありがとう」

お姉ちゃんは、下を向いていったん無言になり、また口を開いて「本当にいていい」と言ってくれた。

その後、お姉ちゃんはラスポサスで見つけたという曼荼羅の針金アートを見せてくれた。

お姉ちゃん
「ねぇ、これ触ってみて?」

幾様にも変化するその繊細な針金は、どんな形に変わっても決して壊れず、全てが新しい発見で、どんな形に留まっても美しいと思える素晴らしいアートだった。


「これ、他の友達も買ったの?」

お姉ちゃん
「うううん、私だけよ?」

旅先でこんなに美しいアートを見つけ、それを「美しい」 と気付いたお姉ちゃんの感性がやっぱり好きだと思い、わたしはとても嬉しくなった。

そして、その想いをそのまま伝えると、お姉ちゃんはとても優しく笑ってくれた。

お姉ちゃん
「じゃあ、シャワーするわ!」

そう言って立ち上がったお姉ちゃんは、今までにないほど強く長くわたしを抱き締めた。

お姉ちゃん
あなたは十分よ。もっと良くなるわ

この言葉を何度か繰り返し、そして頭にキスをしてくれた。

そのお姉ちゃんの温かい愛情に、またホロっと涙が出たが、それはもう痛い青色の涙じゃなかった。





わたしがメキシコを出国したのは、それから3日目の朝だった。

当初の予定ではメキシコからアクセスの良いコスタリカかコロンビアに下って南米を旅して行こうと思っていたのだが、わたしは全く違う決断をした。

そして航空券を買ったあと、真っ先に目的地をお姉ちゃんに伝えた。

お姉ちゃん
「なんで?!南米には行かないの?!」

お姉ちゃん
「だけど最高に素敵な選択だわ!素晴らしいところよ!一緒に行きたいぐらい」

お姉ちゃんは、わたしの意外な決断をそう喜んでくれた。

 

メキシコを出発するまでの3日間は、お姉ちゃんと家の近所をゆっくり散歩しながら、すべての何気ない瞬間を大切に過ごした。

あと、お姉ちゃんの親友であり私の友人でもあるラウラが、母校のメキシコ国立自治大学の産業デザイン学科を案内してくれた。

太古から残っている溶岩をそのまま校舎にしたことで有名なここは、大学なのに世界遺産にも登録されている。

また、在校生じゃなくても無料で授業に参加していいという最高の環境には驚いた。でも入学するのは世界的に見ても難しいらしい。

最後の瞬間まで、こんな素敵な場所に連れてきてもらえて、もう本当に感無量の嵐だった。

 

そして、最終日の夕方前。

一緒に散歩していたお姉ちゃんが少し離れた瞬間に、こっそり近くにあった教会の中へ入った。

教会の中には片手で数えれるぐらいの人だけが居て、ここなら落ち着いて「今の自分の全てで」できると思った。

メキシコに、こんなにも素敵なご縁をくれたことへの感謝を−−−−−−

わたし、クリスチャンでもカトリックでもなんでもないんだけどね(笑)

 

いよいよ出発の朝になった。

わたしが家を出る早朝、お姉ちゃんは起きて見送りにこなかった。

朝方人間じゃないからそれでいいの。

ゆっくり寝ててほしい。

ただ、前夜に預かっていた鍵の返却方法だけ確認した。


「玄関の門、閉めたあとこの鍵どうしようか?」

するとお姉ちゃんはこう言った。

お姉ちゃん
持って行きなさい

最後の最期まで、大好きなお姉ちゃんは、わたしが大好きでたまらないままのお姉ちゃんだった。

お姉ちゃんがどれだけ好きか、照れずに、隠さずに、ありのまま伝えて良かった。

好きを伝えるのに、そんな余計な感情はまったくいらないこと。

時に困難があっても、ちゃんと逃げずに向き合おうと努力すること。

相手がもし向き合ってくれる人なら、それはきっと素晴らしい関係になるということ。

これらは、お姉ちゃんが全てをもって私に教えてくれた大切なこと。

教わったこの生き方をずっと忘れずに生きていくね。

 

メキシコの出国搭乗ゲートで待っているとき、スタバのドリンクを持った女性が目の前に座った。

そのドリンクに書かれている名前を見て、私はプププと暖かくなり、この写真をお姉ちゃんに送った。

AI(HAY)DE

お姉ちゃんの本名は、HAYDEと書いてアイデと発音する。

私とお姉ちゃんの名前がコンバインしちゃったね(笑)

お姉ちゃんに逢えなくて寂しいと思った事は、離れてから今まで一度もない。

ずっと繋がっているって、安心できるものがいつも心にあるから。

さぁ、また新たな旅の始まりだ。

(つづく)